本音で企画の背景を語る「舞台裏」。今回は「バイタル信号処理」についてです。

たとえば心臓が脈をうつたびに、微弱な電流が体表を流れる。これを拾うことで心臓の動きがわかる。それが心電図計だ。一般的にはこのように測る。

これは正確に測れるが、ちょっと大がかりすぎる。できれば、自宅や仕事中にも測定したい。そのニーズから生まれたのが、ホルター心電図計である。24時間(入浴時以外)の心臓の動きを追うことで、不整脈や狭心症などの診断をする。

出典:QLIFE

センサーの新規開発が進む

ホルター心電図計でも、かなりの負担だ。不整脈の疑いがあった友人はこれを「1週間つけろ」といわれて、「懲りた」と言っている。とくに皮膚に直接、電極を貼りつけるのがつらいことは、想像にかたくない。

一方で、繊維に銀ナノ粒子をまぶしたり、カーボンナノチューブで繊維をつくったりすることで、導電性をもたせた繊維も登場している。ふつうに来ている下着に導電性繊維が使われていれば、こうした電極を貼りつけなくても、心電図計測ができるのではないか、ということだ。すでに製品化されているものもある。ミツフジのhamonである。

素材産業にITを提供

この種のシステムは、最初から専門領域をまたいでいる。繊維産業はIT(Information Technology)を不得意とすることが多い。専門が違うのだから、当たり前だ。 Vital Signal Processor(VSP)を受注生産することにしたのは、不得意な部分にソリューションを用意し、この分野の発展に寄与したいと考えたからである。 VSPがあれば、開発したセンサーを使ってのテストが、すぐにできる(商品化にあたっては、VSPの量産の相談も受ける)。

サービス開発を考えるなら、センサーとVSPに加えて、データベースの開発も必要となるが、もちろんそこまで受注可能である(当社の本業のひとつである)。

心筋梗塞の発作をなくしたい

下の図は、 2020/03/09付『日経メディカル』オンライン版に掲載された図だ。

出典:日経メディカル「心不全による死亡はこの20年で2倍に

心不全による死亡者数が増えているのが気になるが、注目は急性心筋梗塞による死亡者数が下がり続けていることである。これは、効果的な治療法(冠動脈ステント/薬剤溶出ステント/薬剤コーテッドバルーンなど)が次々と登場したからだ。

一方で、発作が起きた瞬間、処置に時間がかかると、助からない。みすみす、人命を失うことになる。新しいバイタルセンサーに期待したいのは、ここだ。常日頃からセンシングしていれば、発作を予見できる可能性がある。当社のVCRが、そうしたサービスを世に出すお手伝いができれば、こんなにうれしいことはない。自分たちも、きっとそれに救われるに違いないのだから。