本音で企画の背景を語る「舞台裏」。今回は「超急速充電」についてです。

イケヤフォーミュラの電動トライクとの組み合わせで、超急速充電を提案している。しかし、バッテリと充電については、驚くほど話がかみあわないことを何度も経験した。少し、基礎的な知識をまとめておこうと思う。

「急速充電」でも約30分間

電動トライクを約6分間でフル充電できるなら、10台導入していても、昼休みにすべてをフル充電できることになる。いや、じつは、日産リーフクラスのEVでも、数分間でフル充電できることは確認済だ(ただし、バッテリを選ぶ)。そしてこのことは、EVの未来にとって大きな意味をもつ。

サービスエリアなどに設置されはじめたEV急速充電器だが、フル充電におおよそ30分間かかる。もしも10台待ちならどうなるだろう。11台目の順番がくるのは5時間後だ。その間に、東京を出たガソリン車は関西まで行っている。

「だったらEV急速充電器を増やせばいい」
と思うかもしれないが、そうカンタンにはいかない。これを設置する主体が、電力会社と結んでいる契約(アンペア数)をこえて、電流を流すことはできないからだ。カンタンにいえば、ブレーカーが落ちる

電力貯蔵式超急速充電に可能性

電動トライクの提案では、サンプルとしてテスラのPowerWallを電力プールとして使い、ここにいったん蓄電し、そこから急速充電する図を描いている。これを「電力貯蔵式急速充電システム」という。株式会社エネルギー応用技術研究所が特許を取得しているやり方だ。同社の菅野富男社長は、いいところに目をつけたと思う。

この方式には可能性がある。充電能力を決めるのは電力会社との契約アンペア数ではなく、電力プールの容量と放電性能である。これならブレーカーが落ちる心配はない。

CFBが活躍する

そして、いまやCFB(カーボンフォームバッテリ)がある。電力貯蔵式急速充電システムの難点は、電力プールに向いたバッテリがないことだった。リチウムイオン電池を使うとコストが高くなりすぎる上に、火災の危険と隣り合わせだ。鉛電池はエネルギー密度が小さく、そしてどちらも、低温下では性能が出ない。

CFBは北海道や東北地方の冬でも性能が出るし、なにより放電性能が群をぬいている。鉛電池の8倍、リチウムイオン電池の2.6倍以上だ。急速充電に適している。

リチウムイオンCFB
放電性能3C8C1C
充電性能3C2C0.5C
充電サイクル3000-10000回3600-13500回300-4000回
エネルギー密度120Wh/kg40Wh/kg20Wh/kg
充放電温度-10~40℃-40~60℃0~40℃
自己放電
放電放置不可
BMS必要不要制御依存
故障時対応モジュール交換部分セル交換部分セル交換

電動トライク、そして構内モビリティへ

電力貯蔵式急速充電システムを実用化するには、比較的小規模なシステムから始めるのがいいと考えている。いきなり、EV充電器をターゲットにするには、相手が(容量的にも政治的にも)巨大すぎる。電動トライクのような、容量の小さいものから実装し、技術的・ノウハウ的な蓄積をしたい。

もうひとつターゲットにしたいのは、電動フォークリフトやロボットなどの構内モビリティである。これらに数分間でフル充電できるなら、システムの全体は一変するだろう。

このふたつから始めたいと思う大きな理由が、安全性の確保である。気になるのは気候変動(Climate Change)だ。各地で洪水被害が、毎年のように起きている。大規模電力プールを普及させる前に、水没したときの安全性を確保するノウハウを獲得する必要があるだろう。大容量・高電圧の直流パワーを蓄電するからだ。

この点で、日本の自動車メーカーはさすがだ、と思う。EV/HVが多数、水没をしているが、ドライバーや周囲の人が感電死したというニュースを聞いたことがない。まさにこれが「品質」だと思う。

EV/HVのバッテリが交換式にならない理由

「どうしてEVはバッテリ交換式にしないのか?」という疑問を耳にすることがあるが、「想像だけど、水没したときの安全性が落ちるから」と答えている。交換式にすると、水の対策がいきなり大変になる。

かつ、EV/HVのバッテリを、電動自転車のバッテリのように考えている人が多いことに驚く。成人男性2,3人分の重さがありますよ。パカッとあけて、自分で取り出して、交換できる? 200kgのバッテリを手作業で軽々と交換できる人は、そうはいないでしょう。

さらに、カンタンに交換できる場所にはない(そこは人と荷物の場所)。おいそれととりだせない(安全対策で厳重)。結局、ドックに入庫させ、あちこち取り外して、重いバッテリを重機を使って交換し、またあちこちとりつけて、やっと交換だ。その間に急速充電、できるでしょ、という話。