本音で企画の背景を語る「舞台裏」。今回は「カーボンフォームバッテリ」についてです。
農家の愚痴を聞いた4年前
もう4年前のことになる。農林水産省関係の研究開発プロジェクトにかかわることになり、懇意の農家さんに、改めてニーズのヒヤリングをした。その終わりごろに、彼がふと「いざ使おうと思うと、必ずといっていいほどバッテリがあがっているのが、かなりウザイんです」と口にした。
初めて聞く話だったので、後から調べてみた。鉛電池には1)自己放電が激しい上に、2)完全放電すると壊れる(電極がダメになる。これを「サルフェーション」という)という大きな欠点がある。彼の悩みはこれだ。
農機具は田植機・稲刈機など、年に1度しか使わないものが多い。11か月ほど放置することになる。鉛電池は自動車にも広く使われているが、こちらはサンデードライバーでも、ここまで放置しないし、走行中に充電している。
南極大陸が生んだバッテリ
この話をしていたら、知人から紹介されたのが、CFBジャパンだった。驚いた。電極をナノカーボン素材に変更し、上の二つの欠点が解決された鉛電池があるんじゃないか。
「開発したのはアメリカのキャタピラです」とCFBジャパンのT氏から説明を聞いた。南極大陸に重機を運び、政府の仕事をしていたキャタピラを悩ませたのは、必ずバッテリがあがっている、ということだった。「夏」、すなわち動ける期間が短い南極大陸での重機の使われ方は、農機具と同じである。アイドルタイムにバッテリがあがり、サルフェーションが起きているということだ。
20年の歳月を経て、キャタピラがついに開発に成功したのがCFBである。欠点を解消している上に、さすが南極での利用を想定しただけのことはある。マイナス20度まで正常動作する。
低温に強いのは大きい。北海道のような寒冷地でも能力を発揮するということだ。スキー場で、あっという間にスマートフォンのバッテリがなくなり、慌てた人も多いのではないか。既存バッテリは、低温に弱いのだ。
リチウムは万能ではない
CFBは、既存の鉛電池よりエネルギー密度も大きいので、軽量化の期待もできる。農機具に使えば、1年に1度の利用機会しかなくても、問題なくエンジン始動ができる。これでやっと、ヒヤリングした農家の友人にあわせる顔ができた。
一方で、いろんな方と話していると、思いのほか、リチウムイオン電池信仰が激しくて驚いた。まあ、ノーベル賞もとったので、仕方ないか。たしかにいいバッテリである。が、万能ではない。たとえば低温下での性能だ。スマートフォンがスキー場で早々にバテるのをみてもわかるだろう。氷点下では性能を発揮できない。
そして現時点のリチウムイオン電池の最大の欠点は、発火の危険性である。特定セルへの過充電でも発火の可能性があるから、安全装置が必須だ(これをBMS=Battery Management Systemという)。つまり、現行リチウムイオン電池は、複雑な装置がなければ安全性を保てない。
だから、大規模電力プールには、はっきり言って向かない。装置が複雑になれば故障も増えるからである。発火の危険をゼロにはできない以上、小規模でも家庭用電力プールに使うのは怖いし、大規模だと大規模な災害を覚悟しないといけない。再生可能エネルギーの電力プールに使うとなると、森の中だったりするものだ。
もちろん、発火の危険をなくした、安全なリチウムイオン電池の開発も続けられているし、「開発に成功した」というニュースも見かけるようになった。ただ、CFBは、すでにアメリカでは市販され、評価も実績も得ているバッテリである。
3.11後の養鶏家の苦労
2019年に千葉県を襲った台風15号・19号の被害で目についたのは、農家・畜産家・水産業の二次災害だった。停電が続いたため、散水ポンプがとまり、搾乳機が動かず、氷もつくれない。ボンプがとまると水槽の水も入れ換えられず、空気も送りこめず、魚が死ぬ。
CFBは大規模だけでなく、極小規模の電力プールとしても期待できると思う。日頃から再生可能エネルギーの出力も充電に利用しながら、CFBで搾乳機をドライブしていれば、いきなりの停電にも困らない。充電が間に合わないなら、その瞬間だけ、被害を受けていない地域からフル充電のCFBを複数基運びこめばいい。
私は、3.11の数日後、白石蔵王の養鶏家がツイッターで吐露した苦労を忘れられないでいる。鶏たちに水をやるためのポンプが停電でとまったため、朝から晩まで、彼は水を汲んだ。ひたすら水を汲んだ。
こうした状況を救える応用製品をつくりたい。